花火
「コナンちゃん!」
「なんだよ、もう夕方だぜ?何しに来たんだ」
「浴衣を着よう!!」
「はぁ?!」
せっかくの夏休みを自宅で過ごしていたコナンは、素っ頓狂な声を上げた。
「で、なんで唐突に浴衣なんだよ?」
「今日、花火大会なんだよ、知ってた??」
ああ、そういえばとコナンは思い当たった。
「で、浴衣着て一緒に見ない??」
「何でそうなる……」
「俺が、コナンの浴衣姿見たいからvv」
その理不尽な理由にコナンは相変わらず、本に視線を落としたままだ。
「なんで、わざわざそんな事……」
「ええ〜、夏といったら浴衣で花火じゃん」
「誰が決めたそんなこと」
「せっかく、コナンの為に浴衣作ってきたんだから着て?」
そう言って、快斗はコナンの目の前に淡い青色の浴衣を広げた。
相変わらず器用なヤツ……と、内心コナンは感嘆する。
悔しいから、そんな事絶対に表には出さないけど。
「ね、ほら着替えよ」
そう言って明るく言われたら断れない。
惚れた弱みというやつだろうか。
コナンは大人しく快斗に従った。
「綺麗だね〜」
2人は二階のバルコニーにいた。
わざわざ祭り会場まで行かなくても、ここからなら十分花火が見える。
コナンは快斗に浴衣を着せられ、快斗自身も浴衣に着替えていた。
濃紺の浴衣は快斗によく似合っていた。
もちろん、コナンは口に出していないが。
「綺麗だよねっ」
今度は呟きではなく、同意を求めるように振り向いた。
「……ああ、そうだな」
コナンも手すりに寄りかかりながら、遠くで上がる花火を眺めていた。
色とりどりのそれは、大輪の花を思わせる。
「ほんとにそう思ってる?」
快斗はコナンを抱き上げ、その瞳をのぞき込んだ。
「あんだよ、思ってるよ。人が珍しく同意してるっていうのに……」
「俺はコナンの事、綺麗だって言ったんだよ?」
コナンはその意味を理解すると、顔を真っ赤にした。
「バっ……!何、言ってやがる……!!」
「綺麗だって」
抱き上げているために、すぐ傍に顔がある。
コナンは視線をそらし、花火をじっと見ていた。
「ねっ」
「あ、あのなぁ…っ…」
快斗は朗らかに笑う。
コナンはむくれてそっぽを向いてしまったが、大人しく腕の中に収まっている。
逃げ出さないだけ成長した方だ。
「浴衣、似合うよ」
「そりゃ、お前が作ったんだしな……」
「それは、褒めてくれてるの?」
返事の代わりに、軽く袖を引っ張る。
そんな様子がまた愛らしい。
「本当に似合うよ……ついでにそそる」
「っ!?」
コナンは慌ててその腕から逃れようとするが、快斗がそれを許すはずがない。
「今夜は離さないから」
囁くように耳元で告げられ、コナンは首まで朱色に染めた。
遠くで花火が、夜空を彩っていた。
fin
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