嵐の来訪者








夏休み


それはハリーにとって、拷問以外のなにものでもなかった。

ホグワーツに入学して4回目の夏休み。
もう休みの半分ほどが終わったが、まだまだこの地獄は続いている。

階段下よりは幾分まともな小さな部屋で、ハリーは目を覚ました。
このダーズリー家の中にいるうちは、ハリーは他の誰よりも早く目覚める。
音を立てないように起きあがると、寝ぼけ眼でぼろぼろの服を身にまとった。

開けっ放しの窓に近寄ると、タイミング良くヘドウィグが飛び込んできた。
嘴には、二枚の封筒をくわえている。

ハリーはそれを受け取ると、
誇らしそうに羽ばたくヘドウィグを何度か撫で、飲み水のあるかごに連れて行った。

封筒の裏側に目をやると、一通はハーマイオニーからのものだった。
夏休みだというのに自分を気遣ってくれていることに、うれしさと申し訳なさから苦笑がこぼれる。

ホグワーツに戻ったら、お礼しなきゃ……

もちろんハーマイオニーだけでなく、ロンやウィーズリーの一家にも。

そしてもう一通の方を裏返して、思わず自分の目を疑った。


これは……どういう事…?


差出人の名前に驚いていると、荒々しいドアのノック音が聞こえた。

「ハリー!さっさと下で朝食を作りなさい!」

ドア越しでも聞こえる甲高い声には、思わず耳を塞ぎたくなる。
また、億劫な一日が始まる、とため息をつきながら、
ハリーは手紙の内容を確認する間もなく置き、部屋を後にした。




ハリーを見張るように立っているペチュニアおばさんからは
さっさと作れ、とか、油分を押さえろ、とか口を開けば文句しか聞こえてこない。
ハリーはイライラとフレンチトーストを作っていた。

そのうちダドリーが起きてくると、おばさんはリビングに飛んでいってしまった。

ハリーはその方が静かでいい、と料理を作り続けた。



そんな調子で夜まで過ぎ、またハリーはキッチンで夕飯を作っている最中だ。
昼間は一日中庭の草むしりをやらされ、もうくたくたに疲れている。
ダドリーにダイエットをさせたいなら、自分の代わりに草むしりでも何でもさせればいいと、毒づいた。


バーノンおじさんも帰宅し、リビングでは一家団欒といった雰囲気が流れている。
ただ一人、ハリーを除いては。


まるでそんな雰囲気を壊すように、唐突に玄関のチャイムが鳴った。
一回二回と一定のリズムで家の主を呼ぶ。
その突然の邪魔者に、ハリーはいい気味だと口元に微かに笑みを浮かべた。

リビングからペチュニアおばさんが出てくると、玄関に向かった。

しかしハリーは自分には関係ないと、再び料理のほうに専念し始めた。
噴きそうになっている鍋の火を止めると、玄関からわずかに会話が聞こえてくる。

するとすぐにペチュニアおばさんのヒステリックな声と、慌てたような会話が流れてきた。
一体何事だろうと思っていると、その声に気が付いたのか、バーノンおじさんが玄関に飛び出していく。

それとほとんど同時に「出ていけ!」という叫び声がした。
そして続けざま「ハリー!!」と呼ぶ声が聞こえた。
ハリーは訳がわからないまま、エプロンをほどき玄関に出た。





…絶句というのはまさにこのことなんだろう。

思わずエプロンを落としてしまったが、それどころじゃない。

「ハリー!」
「やぁ、久しぶりだねハリー。」

玄関には3人の男とおじさんとおばさんがいた。
おじさん達がこちらを睨んでいるが、そんなもの目に入らない。




3人のうちの一人は髪を無造作に伸ばしていた。
非常に整った顔つきでラフなハイネックのトレーナーにジーンズといった格好だ。
心配半分、嬉しさ半分というような表情を浮かべている。

真ん中にいる人は茶髪を後ろで緩く一つに結んでいる。
綺麗な顔に笑顔を浮かべて、深緑の長袖のフリース姿。

もう一人は、一度こっちを見たきり視線を逸らしてしまっているけれど、不機嫌そうないつもの顔。
この人もいつもからは考えられないほどラフで、黒のシャツに黒のパンツといった出で立ちだった。
でも黒ずくめなのは相変わらず。


――そう、あの3人なのだ。



「ええええ!!?なんで!?どうして!えぇ!?」

やっと言葉が出てきたと思ったら、それは叫び声にしかならなかった。
いやこれは僕でなくても叫ぶ、と心のどこか妙に冷静な部分で無意味な否定をしてみる。

「ハリー!!これは一体どういうことだ!!」

バーノンおじさんが顔を赤くして怒鳴っている。
そんなのこっちが聞きたいです、と思わず声に出しそうになった。

「仲間を呼びおって!さっさと追い返せ!!」

そんなもの呼べるんだったらとっくの昔に呼んでます、といっても聞き入れてくれそうにない。
第一、仲間と呼べるのかどうか疑わしいし。

まだ、おじさんはわめき散らしていたが、それは静かな咳払いによって収まった。

「…我々にも、話をさせていただけませんかね。」

おじさんもおばさんも、つられてそっちの方を見る。
ハリーもそちらに目を向けると、不機嫌そうな視線とぶつかった。
しかしその人は一言そういったきり、隣の人に目で合図を送った。

「さっきも言いましたとおり私たちはハリーの知人です。ハリーに話が合ってきたのですが……。」

笑顔を崩さないまま、その人は素直に続きを受け継ぎ話し始めた。

それでも、バーノンおじさんは「帰れ!」と叫んでいる。
かなりの大声だったためか、向かいの家のドアが開いた。
中から人が出てきて、何事かとあたりを見回している。

バーノンおじさんは怒りに肩を震わせながら、しかたなく三人を家の中に入れドアを荒々しく閉める。
何よりも体裁を大事にするバーノンおじさんだ。当然といえば当然だろう。
おばさんは青ざめてその場に立ちつくしている。

まだショックが収まりきらず、どうしよう、と考えていると突然衝撃とともに抱きしめられた。

「ハリー!久しぶりだな!」
「シリウス!」

嬉しくて思わず抱きしめかえすと、ひっと息を飲む音が聞こえた。
おばさんが、カタカタと震えながらハリー達の方を指さしている。

「シリウス……!シリウス・ブラック!?」

それが、脱獄者である彼に脅えているのだということはすぐに解った。
少し、シリウスに悪いことをしたような気分になる。

「……随分と有名になったものだな、ブラック。」

そばを通り際、スネイプ先生が意地悪げに口角をあげた。

「お褒めにあずかり光栄です、スネイプ教授。」

シリウスはぎゅっといっそうハリーを強く抱きしめた。
明らかに二人の間に火花が散っているのが見える。
二人が顔を合わせるといつもこれだ…とハリーは二人に解らないように小さくため息をついた。

やっとシリウスに解放されるとルーピン先生がそっと
「目の前でハリーに抱きつかれて妬いてるだけだよ」と耳打ちしてくれた。

ハリーは頬を赤く染めた。この人には絶対に適わないと思う。
ていうか、本当に一体何者なんだろう。
…どういう訳か、僕とスネイプ先生の関係まで知ってるし……。





――そう、この3人なのだ。






リビングにいたダドリーを部屋に追い返し、リビングには6人だけ。
ダドリーを見た瞬間、スネイプ先生がちっと舌打ちをしたのが見えた。

おじさん達は突然の来訪者に一刻も早く帰って欲しいという雰囲気だ。
だが、それが言い出せないのはおそらくシリウスのおかげだろう。
一応三人を椅子に座らせ、向かい側のできるだけ離れた位置におばさんと二人で座った。

「夕飯時に連絡もなく訪れて申し訳ありません。」

ルーピン先生は相変わらず真ん中で、まずは儀礼的に話を始める。
先生が口を開いた瞬間、おじさん達はかすかにびくりと震えた。

「私たちはハリーに用があって来たのですが…。」

そこでルーピン先生が言葉を切る。
ハリーは何がなんだかさっぱりという感じでドアの所に立っていた。
ルーピン先生が少し困ったようにほほえむ。
スネイプ先生が一つため息をつく。

「…その様子では手紙をまだ見ていないようだな、ポッター。」

突然話を振られて思わずびくりとした。

「手紙ですか?」

スネイプ先生は無言で頷いた。
ハリーはえーと、と記憶を辿る。

「もしかして、あのダンブルドア先生からの手紙ですか!?」

そういえば、朝ヘドウィグが運んできた手紙のことをすっかり忘れてしまっていた。
ハーマイオニーの手紙と一緒に来た、ダンブルドア先生の手紙。
スネイプ先生からやはり、といったため息が漏れる。

慌てて、見てきますっ!とリビングを飛び出し自室に向かった。







急いで部屋に戻ると窓辺にあった茶色い封筒を開けた。
蝋封をやぶり中の内容にさっと目を通す。

几帳面な老人の字を最後まで読み終わると、ハリーの手が震えた。
思わず目を見開いて、何度も何度も読み返す。

自分の読み間違いでないことを確認すると、ばたんと部屋を飛び出した。




ばたばたと階段を踏みならして下りてくると、ハリーはシリウスに抱きついた。

「いいの!?ホントに!?」

ハリーは喜々としてシリウスを見上げる。
シリウスは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにハリーを抱きかかえた。

「ああ、もちろんだ。ダンブルドア先生が許可を出されたからな。」

にこりと笑ったシリウスは本当に格好いいと思った。
その奥に相変わらず明後日の方を向いているスネイプ先生が見えた。
相変わらずの不機嫌な顔。

「……むしろ、そうして貰わないと我輩達が困るのだがね。」

だが、声はその表情とは裏腹でほっとした。
ダーズリー夫妻は何事だと怒りの色をありありと浮かべている。
ハリーはそんなことも気にせず、心からダンブルドア先生に感謝した。





前にもまして、ヴォルデモートの動きが見える。
もちろん、世間にはあまり話していないが……。
もしかしたら、ハリーが危険な目に遭う可能性がある。
護衛の者を送るから、しばらくその者達と暮らしてほしい。

PS いろいろ大変かもしれないが、夏のバカンスを楽しむように!





と、いう内容の手紙。
ヴォルデモートから逃れる名目で、三人と一緒に暮らせる手配。
きっとあの老人の心遣いなのだろうとハリーは思った。

ヴォルデモートから身を守るだけなら、ダンブルドア先生のそばの方がきっと安全だ。

そんなことを考えているうちに、ルーピン先生がおじさん達と話を付けたらしい。

随分素直にいうことをきいたものだなと思う。
ルーピン先生は一体何をしたんだろう。
心なしかおじさん達の顔が青ざめている気がする。


「さ、ハリー準備をしておいで。」

そうシリウスにいわれるまま、ハリーは頷いてもう一度二階に戻っていった。





今年の夏は今までとは大きく違ったことになる予感を感じながら。


Fin



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おまけ
ハリーが手紙を取りに行ってる時の3人

「いやぁ、ハリーは相変わらず可愛いねぇ。」
「……お前がいうと犯罪的に聞こえるぞ、ルーピン。」
「やだなぁ、君たちじゃないんだから、手を出したりなんかしないよ。」
「達ってどういう事だ、達って!この陰険教師、また俺のハリーに…!!」
「まて、いつからポッターがお前のものになった!」
「ポッターじゃなくて、いつも通りハリーって呼べばいいのに。」
「スネイプ!!お前、やっぱり…!!」
「な、貴様こそ、名付け親に託けてポッターを!」
「お前と一緒にするな!ダンブルドアに訴えてやる!」
「なんだと!…ん?ちょっとまて、ルーピン貴様何故そこまで知っている!?」
「…(バレたか)…そりゃあ、ねぇ。おもしろそうだったし。」
「リーマスお前なぁ……!」
「いいでしょ、いろいろ協力してあげてるんだし。」
「協力だと!?この狼め!だから貴様は信用ならんというんだ!!」
「あ、狼っていえば脱狼薬ちょーだいv今日満月だから。」
「…………………………………………………………………さっさと飲め。」
「ありがとう。いつも悪いねぇ。」
「そう思うなら自分で作れるようになれ。」
「無茶いわないでよ。…あ、でも僕がダメでもハリーに今から教え込めば、僕専門の薬師に……」
「「絶対駄目だっっ!!」」

ダンブルドアのいろいろ大変かも、のいろいろとはこのことのようだ


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