木漏れ日の下、二人






木漏れ日が差し、小鳥のさえずりが耳朶に響く。
僅かな風に揺すられた木は、静かな音をたてていた。
普段なら髪型を崩す鬱陶しい風も、今は心地よいものに感じる。


背の低い草を踏みしめ、あてもなく歩き回る。
風で落ちてきた紫の髪を耳に掛けると、空を仰いだ。

生い茂った木々の隙間から、空の欠片が見える。
雲など見えず、真っ青に澄んでいた。

風が吹き抜け、葉が踊る。
その拍子に瞳に陽光が入り込み、思わず顔をうつむけた。

視線を動かす際、霞んだ視界に鮮烈な朱が見えた気がした。
真っ白だった世界が徐々に色を取り戻す。
もう一度顔をあげると、そこには確かに朱色の髪があった。


座り込み、太い木の幹に寄りかかって、こちらに背を向けている。


ちょっとした悪戯心に、足音も気配も消し、その背中に忍び寄る。
さながら狩りをする獣のように。

すっと彼の斜め後ろに立った所で、違和感に気がついた。


規則正しく聞こえる寝息。
開いたままの本を手に持ち、眼鏡も掛けたままレックスは穏やかに眠っていた。


拍子抜けだと、スカーレルはその場に膝をつき、そっと眼鏡を外す。
それでも彼は身じろぐ様子もなく、静かに眠り続けていた。

また子供達の教科書でも作っていたのか。
熱心な先生は、いつも他人のために奔走している。



まぁ、そんな所も好きなのだけれど。
妬けてしまうのも、また事実。



知らず、笑みが浮かぶ。
普段の造りモノの笑みではなく、心から、安堵から来る微笑みだった。
最近では、表情豊かになったと我ながら思う。


レックスに倣い、身体を木に預ける。
清々しい風が頬を撫で、木々は相変わらず鳴いている。
わざわざ起こす事はないだろうと、暫く待つ事に決めて瞳を閉じた。









+++










冷たい風が髪を掬い、ひやりとした空気に目を覚ました。
どのくらい眠っていたのかは判らないが、空が赤くなり始めいてる。

気温が下がって来たのだろうか、僅かに身震いをしてまだ眠気を訴える目を擦る。
寝惚けた頭がやや覚醒し、気怠げに動かしていた手を止めた。


そういえば、眼鏡を掛けていたはずだが。

寝惚けているうちに自分で外したのだろうか。
緩慢な動作で辺りを探っていると、暖かい物に手が触れた。

慌てて横を向くと、そこには赤紫の髪があった。
寝惚けていた頭は一気に覚醒したが、驚きで声も出ない。
彼が寝ている事に気づき、声を出さなかったのでもあるが。

小さな寝息が聞こえ、肩が緩やかに上下している。
ふと気付けば、スカーレルの手には眼鏡が握られていた。


外してくれたのか、と少しだけ微笑ましい気分になり、同時に彼はいつからここにいたのかという疑問が浮かんできた。

再び夜の冷気を含んだ風が吹き抜け、レックスは着ていたマフラーをスカーレルに掛ける。
これでも、肩を覆う事くらいは出来るはずだ。

出来るだけそっと動いたつもりだったが、手が肩に触れると紫苑の瞳が開かれた。

宝玉と見まがう瞳が睫の奥から現れるのは、蕾が花開く様に似ている。


「……おはよ、レックス」

虚ろな焦点が徐々に定まり、スカーレルが微笑む。
その愛しい人につられて微笑み返し、その距離の近さに照れ笑いを浮かべた。

「おはよう、スカーレル。……寒くない?」

一応マフラーはスカーレルの肩に巻き付けておいて、再び隣に腰を下ろす。
スカーレルは首を横に振ると、レックスの肩に頬を乗せた。

「そろそろ帰らないと、みんな心配するね」
「……そうね」

そう言いながらも、スカーレルは動く気配がない。
それはレックスも同じで、幹にもたれかかったまま大きく息を吸い込んだ。


すると、投げ出していた手に、彼の手が重ねられる。
口には出さないがそんな行動の端々が愛おしくて、頬が緩む。


「……もう少し、こうしてようか」

スカーレルが微笑と共に頷くのを、視界の端に映る。
重なった手と指を絡めると、優しい力が伝わってきた。










fin





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キリ番、本来は8700番だったのですが、
申告がありませんでしたので、1番違いでリクを受けさせて頂きましたv

遅くなって申し訳御座いません;;
ほのぼの……してますでしょうか??(滝汗)
こう…少ない休み時間、みたいなイメージで(謎)

尚、この小説はお持ち帰り自由です。(直リンクはご遠慮下さい)
どうぞ、お気に召しましたら持って帰ってやってくださいまし。
その際、ご一報いただけると飛び跳ねて喜びます!




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