I mustn't wish, but I wish.
「酒が飲みテェ!!」
バルレルは、もう何百回と繰り返しているセリフを口にした。
「なんだよ、いきなり?」
「いきなりじゃねぇ!オレに酒を飲ませろー!!」
マグナは、すぐ隣で騒いでいる護衛獣を無視する事にした。
本人の言う通り、この発作は今に始まった事ではない。
こちらの世界に来てからずっと、バルレルは禁酒を命じられていた。
例の、あの天敵とも言える天使によって。
「オレをひからびさせる気か……」
バルレルは騒ぎ疲れたのか、ベッドにぐったりと沈んでいた。
それでもまだ、酒、酒、と呟いている。
この執念にはさすがのマグナも敬服した。
「そんなに、酒飲みたい?」
マグナは、ベッドに仰向けになっている護衛獣をのぞき込んだ。
「飲ませてくれるのか!?」
バルレルは酒が飲めると聞いた途端、瞳を輝かせた。
「飲んでも良いよ?今日はアメルもいないしね」
「よっしゃぁ!!マグナ、てめぇ話がわかるようになったじゃねぇか!」
バルレルは飛び起きるとガッツポーズを取った。
「ただし……」
「?」
「ほら、バルレルもっと飲めよ〜!」
「うぉっ!いてぇだろ、このバカ」
辺りには既に数本の空瓶が転がっている。
そのために、マグナは完全に出来上がっていた。
「ばるれるー、酒ぇ〜もっと持ってこいよ」
「飲み過ぎだっ、てめぇは!」
「んらことないってば〜」
マグナは座り込んで、上機嫌で瓶を振り回している。
バルレルはこの主の行動に困り果てていた。
「……こいつがこんなに酒乱だとは思わなかったぜ…」
マグナが出した条件は、自分も酒を飲みそれにバルレルも付き合う事。
バルレルはそんな事ならと、簡単に承諾したのだった。
「ばーるーれーるー、酒vv」
「おいっ」
マグナは、後ろからバルレルに抱きついた。
「あ〜離せよ、この酔っぱらいっ!」
バルレルは必死に引きはがそうとするが、この子供の身体ではそれもままならない。
立って、マグナを支えているだけでやっとだ。
「いい加減に、退きやがれ!」
そう言ってみるものの、反応はない。
不審に思い振り向いてみると、この男は既に寝息を立てていた。
「こぉの野郎…!」
バルレルは拳を震わせる。
マグナは、そんなバルレルの様子にも気付かず熟睡していた。
「……ったく!」
バルレルはため息を付くと、マグナをベッドまで運ぼうとした。
しかし、子供の身体ではかなり無謀だ。
誓約が解かれているのを良い事に、バルレルは元の姿へと戻った。
「よっ…と」
軽々とマグナを抱え上げると、ベッドの上に降ろした。
少々乱暴だったが、このくらいでは目は覚めないだろう。
瓶や散らかった肴を適当に片づけると、部屋の灯りを消した。
月が明るく、目が慣れたなら十分に部屋の中を見渡せる。
バルレルはマグナの傍に腰を下ろした。
マグナは相変わらず眠り込んでいる。
バルレルは、そっとマグナの前髪を梳いた。
こうしてみると、まだ寝顔は幼い。
自分の生きた年数と比べると、幼いと言っても間違いではないが。
マグナは微動だにしない。
まるで引き寄せられるように、バルレルは眠るマグナに口付けた。
はっとして身体を起こす。
自分でも、この行動に驚いていた。
「…ちっ……相当、酒が回ってやがるのか……」
バルレルは苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
と、その時。マグナが寝返りをうった。
バルレルは驚き動きを止める。
マグナは、特に起きる気配もなく再び寝息を立て始めた。
バルレルは、マグナを起こさないように静かにベッドを降りた。
「ん…ネ、ス……」
マグナがそんな事を呟いた。
小さな声だったが、十分に聞き取れる。
バルレルは、何処か胸の奥が痛んだ気がした。
「……相当、オレも酒に弱くなったなぁ」
バルレルは、床に腰を下ろしベッドにもたれ掛かると酒瓶を一気に煽る。
全ては酒に惑わされた事にした。
fin
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