君の知らない事






「そういえばセンセって、本読む時は眼鏡かけてるのね。」

木漏れ日の中、切り株に座り寄り添う影があった。

「そうだよ、見た事無かったっけ?」

レックスは切り株に腰を下ろしている。
スカーレルは後ろから首に手を回し抱きついていた。

「ええ、初めて見たわよ。」

そう言うやいなや、レックスから眼鏡を奪い取る。

「ちょっと、スカーレル。」
「あら、あんまり度がきつくないのね」

奪い取った眼鏡を掛け、きょろきょろと視線を動かす。

「ああ、そんなに目が悪いわけじゃないからね。
実際、無くても普段の生活には全く困らないし。」

早くも取り返す事はあきらめたらしく、困ったように笑う。

「でも、字を読む時にはかけてるんでしょう?」

スカーレルは眼鏡を外してたたみ、レックスの手に置いた。

「そうだけど……どうかした?」
「……ずるいわ。」
「……は?」

レックスはうつむいたスカーレルをのぞき込む。
未だにこの人の行動は理解出来ない時がある。

「だってずるいじゃない!
ウィルはその眼鏡掛けたセンセのこと知ってるわけでしょう!?
アタシだって知らないのにー!」

悔しいっとハンカチを噛み締める。
レックスは呆然とその様子を眺めていた。

「あの、スカーレル……?」
「何よ」


なんか眼が本気っぽい……


レックスの背を冷や汗が流れる
スカーレルは駄々をこねる子供のように、不機嫌なオーラを纏っていた。


「いや、その。俺は一応、家庭教師なわけだからさ。
ウィルに勉強を教えるのは当然だろ?」
「……」

とてもではないが、納得したという雰囲気ではない。
レックスは思わず後ずさった。

「やっぱり悔しいわっ
あの子供の方がセンセについてよく知ってるなんてー!」

とても止められそうにない。
こっちの方が子供なんじゃないだろうか……。


「だ、だからさスカーレル、とりあえず、落ち着いて……」

そのセリフを言い終える前に、スカーレルに唇を塞がれた。


「冗談♪」


レックスは目を開けたまま硬直している。
そんな様子を見て、スカーレルは噴き出した。

「あははっ、センセったらそんなに驚く事ないじゃない。
本気でアタシがウィルに妬いてると思った?」
「ス、スカーレルッ」

レックスはやっと状況が呑み込めたらしく、頬を紅くして反論した。
もちろんそれはスカーレルに簡単にあしらわれてしまう。

「ま、でも妬いてるのは本当だけどね」
「え…」

スカーレルはもう一度軽くキスをした。
唇を離すと触れるか触れないかのところで留まる。

「けど、こんなに近くで顔見られるのはアタシ一人でしょ?」

スカーレルは笑みを浮かべると、軽くキスをして立ち上がった。

「まだまだ、あのコには負けないわよ。」

レックスはやれやれといった表情で、その様子を眺める。





辺りには小鳥のさえずりが響いていた。






fin



→novel




ちなみに読んでる本は「恋する乙女は片手で龍をも殺す」だったり……(笑)








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