May I believe you?







あたりが闇一色に染まる頃。


浜辺にたたずむ一つの影があった。
長身で闇夜でも目立つ朱色の髪。



アズリアとの決戦を終えた、今日



終わったのか
それとも、始まったのか



イスラは不適な笑みを残して消えた。
姉の元から

本気でアズリアを殺そうとしていた
それは殺気でわかる。

だが先ほどの戦いは何だったのだろう。



今までにみたことがない、普段の彼らしくないような言動。
それともあれが『彼』なのだろうか



アズリアは一緒に戦ってくれると言った。

過去を乗り越えるために
想い出を力に変えるために

共に戦う、と







レックスは強く拳を握った。
普段の笑顔は微塵も感じられないような、複雑な表情を浮かべて。


……アズリア……








「センセ」
「!」

レックスは驚いてさっと剣の柄に手を掛ける。
声で誰かぐらいわかっていたはずなのに。

その反応に驚いたのは、寧ろ訪問者の方だった。
紫の髪は結い上げられ、唇にはよく似合う紫が引かれている。


「……スカーレル…。どうしたんだい、こんな夜中に。」

とっさに笑顔を取り繕うが、それは全く無駄なこと。
毒蛇の異名を持つ彼は、他人の心を探ることに長けている。

「それは、こっちのセリフよ。ま、だいたいわかってるけど」

ぎくりとするのが自分でもわかる。
曖昧に笑ってみせたが、目の前の彼は至って真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

スカーレルは長い指で、レックスの前髪を軽くかきあげた。

「まだ、汗が引ききってないわね……。ここで戦闘があったことに気が付かないとでも思ったの?」

レックスはため息とともに、まいったな…と呟いた。

「そりゃ、アナタがあれだけ気配に敏感になってれば、何かあったことぐらい気が付くわよ。」

最も注意力は散漫みたいだけどね……

「ごめんなさいね、助けてあげられなくて。」
「いいんだよ。結局俺たちには怪我はなかったし。」


俺たち……
その言葉が胸に刺さる。

きっとこの先生は気が付いてないけれど。
ポーカーフェイスには自信があるから


「スカーレルこそ眠ってないみたいだけど、何かあったの?」

そう言われてスカーレルは軽く目を見開いた。
どうしてこういう所だけは鋭いんだか…。

「あら、コイビトがいないベッドに入ってても眠る気になんてならないわ。」
「嘘だね。」

あたり。
でも、半分はずれ。

「……どうして?」
「どうしてって……ルージュだって落としてないし、髪だってほどいてないし。」

ベッドには入ってないだろ?と優しく訊ねる。

こんなに自分のことをわかっていてくれて、自分を心配してくれて。
嬉しくないはずがないのに。
何故、こんなにわだかまりが出来るのだろう。

「あら…意外とそういうの判断するのに慣れてるのね。」

言いたいのはこんな事じゃないのに。

でも、ああ、ほらやっぱり。

困った顔で笑ってる。
アナタは嘘を付けないから、それは肯定しているのと同じなのに。

「さあ、もう帰ろう?やっぱり夜は冷えるし……」

そうい言って歩き出そうとする彼の腕を掴む。

「スカーレル?」
「……っ…どうして…」

スカーレルは腕を握る手に力を込めた。

「どうして、そんなに無理するの!?こんなに冷えるのに汗が引かないなんて…!
 怪我してるか、過労かのどちらかからか来る熱のせいに決まってるじゃない!
 どうして…っ!そんなにあの女が大事なの!!?」

そこまで言うと、スカーレルははっとしてレックスを見上げた。
レックスは目を見開いていた。

「…スカーレル……?」
「…っごめんなさい…言い過ぎたわ……」














今夜…胸騒ぎがして眠れなかった。
自室にいても落ち着かず、看板に出ていた。


ぼうっと海を見ていても、その不安感をぬぐい去ることは出来なかった。


どれくらいそうしていたのかわからない。

しばらくして気が付いた時に、人の話し声が聞こえてきた。
どうやら船の下らしいが、敵か味方かもわからない。

スカーレルは用心しつつ、船の上からその声の主を捜した。


するとあっさりとその人物達はみつかった。


一人は自分もよく知る人だ。そして、自分が最も信頼している人。
もう一人は彼の影になってみづらかったが、やはりすぐにわかった。


……アズリア……


スカーレルはギュッと手を握った。

この距離では会話の内容までは聞き取れない。
ただ、二人が真剣に話をしているのだけはわかった。

これは二人の問題だ、自分がみてはいけない……。
それがわかっていても、その状況から目が離せなかった。

だが見なければよかった……と、この後本気で後悔した。








涙を流すアズリアを、レックスが優しく抱きしめていた。








それは、まるで恋人達の逢瀬のような。
いや、本当にそうなのかも知れない。

スカーレルは音を立てないように、出来るだけ速くその場を移動した。


長い廊下を進み、バタンと自室に飛び込むとずるずると座り込む。



胸が苦しい……



もう何がなんだかわからなかった。


遠くで刃物の合わさる音がしても。
怒声に近い声が聞こえても。

その場から動けなかった。


助けに行かなくては、と思っても怖くて動けなかった。














「本当ごめんない……今のは忘れて……。」

スカーレルは手を放すと、ゆっくりと船の方へ歩き始めた。

「待ってスカーレル!」

レックスはスカーレルの肩を掴んだ。

「離して!」
「嫌だ!」

スカーレルは無理矢理腕を払おうとするが、力ではレックスに適うわけがない。
あっという間に両手を押さえ込まれる。

「離してよ!!…こんな時だけ強引なんだから……っ!」
「ああ、強引にもなるさ…。なんかスカーレルが勘違いしてるみたいだからね。」

それを聞くとスカーレルはぴたりと動きを止めた。

「勘違いなんてしてないわよ。だから離して!」
「してるよッ」

レックスは腕ごとスカーレルの体を強く抱きしめた。
思わずスカーレルも押し黙る。



「俺は、誰よりもスカーレルのことを選ぶ!
例え相手が、自分だろうと、カイル達だろうと。もちろんアズリアでも…。
そのことは信じてくれ」


レックスは抱きしめる腕に力を込めた。

スカーレルは言葉を失っていた。



「…っ…口で言うだけなら、誰にでも出来るわ!変な期待させないでよ!」

違う…言いたいのはこんな事じゃない。
本当は……凄く嬉しいのに……信じたいのに。


「そうか……。」


そう言うとレックスはスカーレルの体を解放した。

急に去った温もりに、途方もない喪失感を感じる。


「ごめんね、スカーレル……。迷惑も考えないで…もう二度と、こんなことしないから……。」


迷惑なんかじゃない。


ただ、自分は失うのが怖いだけ
信じて裏切られるのが怖くて
ずっと強いふりをしてきた

そして、やっとアナタに逢えたのに……



「バカッッ!!」

気が付いたら、踵を返した背中にそう叫んでいた。

「そうだね、おれはバカだよ……。」

一度立ち止まってそう呟いたが、すぐにまた歩き始めた。






本当、バカよ……
アタシの気持ちに気が付かないなんて……

結局いつも翻弄されるのはアタシの方





それでも


好きだから


「待って……レックス…っ」


だから







信じてもいいですか?






fin



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