幸運を







「ひさしぶりね」

……

「あら、黙り？相変わらずねぇ、茨の君」

あなたほど話しをする気にはならないわ
毒蛇

「あ〜ら、皮肉で応じてくださってどうも。
毒蛇なんて二つ名、最近呼ばれてなかったから、なんか変な感じねぇ。」

……
とっくに始末されたものだと思っていたわ

「あら、心配してくれたの？」

ふざけないで
ただ、まさかここで再会するとは思わなかっただけ

「……そうね。
絶対殺されると思ったけど、あの海賊一家に拾われてね
それからなんとなく、こうやって生きて来たのよ」

……

「どうしかした？」

私も仕事を失敗した
どうせ殺される

それがこの世界でしょう

「そうかしら」

……
それは貴方が一番良く知っているはず
私の監視をし、組織一と謳われた『珊瑚の毒蛇』ならね……

「そうね……確かに殺されると考えるのは当然ね……この世界の住人なら。
けど、よく考えてみなさい。
今、無色には力がない。オルドレイクは深手を負い、しばらくは動けない……
使い物にならなくなった駒にわざわざ削く戦力があるかしら。
それも、今や紅き手袋のまとめ役『茨の君』ほどの実力者を……」

……
それは……

「……ま、それは建前なんだけどね」

……え……

「レックスが護ってくれるわ、必ず」

……

「……」

……冗談
何処の世界に自分を殺そうとした人間を、助ける馬鹿がいるっていうの？

「いるわよ
あの人はそういう人。他人が傷つくのを見るのが一番嫌いな…
優しい、優しすぎる人」

……

「あなたも感じたでしょう
レックスの力を……
あの人は光と闇の両方を持っている……」

……馬鹿な男
どうせ、みんな一緒よ
身体だけ……そして殺される

「無理よ……あなたじゃ殺せないわ」

……随分ご執着ね

「当たり前よ
だってアタシの最愛の人よ？」

……

「信じてないわね」

ええ
笑って人を殺せるような貴方に愛なんて、似合わないわ

「まぁ、昔はね。でも本気
死んでもあの人の事は守ってみせる
……あの人を殺せるのはアタシだけ
誰にも渡さない」

……
何故？

「何故って……愛の前に障害はないのよ」

質問の答えになっていないわ

「人を好きな理由を答えろと言われても……難しいわよ
アタシが言えるのは、あの人の為なら何もいらない、ただそれだけよ」

自分よりも大切だと？

「そうね、簡単に言うと」

わからないわね
どうして……

「……さあ
アタシはあの人に救われたのよ
だから、護りたい」

……
変わったわね、毒蛇……

「みんなそう言うわ
それもこれも、センセとグラートのおかげよ……」

……そう

「だから、きっと貴方も変わる」

どうしてそんなこと言い切れるの！？

「自分で気づいているでしょう、レックスに惹かれていることに
あの人には不思議な力がある」

……

「……まぁすぐにわかるわ」

……

「じゃあ、そろそろ帰るわ
傷、さっさと治しなさいよ、センセが心配するから」

……
関係ないでしょう

「クス……ああ怖
まあ、いいわ
きっとレックスと会った事、貴方を変える」

……

「それが貴方にとってプラスかマイナスかはわからないけど、必ずね」

……

「……レックスはあなたの幸せを望んでいるわ」

……
変わったわね、毒蛇

「ええ……あの人を信じているから」

……

「じゃあね」






本当変わったわよ、毒蛇
あの冷徹だった貴方が、毒をあれほど自在に操っていた貴方が

あんな眼が出来るようになったなんて


本当に……


貴方はきっと気がついているでしょうね……
私の初恋が貴方だったって


今はもう忘れてしまったけど……




『あなたの幸せを……』




変な人……


『信じてるから……』



ならばせめて







変わり者と優しい毒蛇に




幸運を








fin



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