道標−みちしるべ−







あの大騒ぎから約20年
島には聖王国からの使者がやってきていました







「へぇ、やっぱり俺もその先生と会ってみたいよ。」

マグナは人なつこい笑みを浮かべる。
それにつられるように、ナップも笑顔を浮かべた。

「そうだな。…あーあ、先生がいれば喜んだんだろうけどな。」
「……そっかぁ、でも用事があるならしかたないよな。」

ナップは残念そうにため息をついた。
マグナも残念そうに視線を落とす。

少しするとナップは、しょうがないな、といわんばかりに顔を上げた。


「逢えるといいんだけどな。」
「うん。」

ナップが悪戯っぽく笑みを浮かべた。



「そういえばさ、マグナ。」
「何?」

マグナはきょとんとした顔でナップを見る。

「マグナってネスティとつきあってんの?」
「!」

マグナは思わずがたっと椅子を鳴らした。

「う……なんで、また突然。」
「そりゃ、みてればわかるって。」

マグナはじっとナップの目を見る。

鳥が飛んでいく間も、空風が吹く間も、ずっとそうしていたが、
しばらくするとマグナはため息を吐いた。

その間に言葉にならない葛藤が、二人の間にあったに違いない。


「付き合ってるよ。」
「やっぱり?」

マグナはこくりと頷いた。

「なんでわかったの?」
「そりゃ、なんていうか……こう、ネスティがマグナに対してだけ優しいとか、
意外と表情にでてるとか、必ず隣にいるとか……いろいろで。」

そこまでいったところで、マグナは急にがたんと音を鳴らして立ち上がった。

「……あ、悪い。気にさわったんなら……。」

ナップが思わず謝ろうとしたら、急にマグナに手をとられた。

「……わかる!?」
「は!?」

何が…と聞こうとして、マグナの様子を見て思わず固まった。

「いやーネスってさー、意外と顔にでるんだよね。それを自分で気づいてないっていうところがまた、可愛くてさv
なんか、普段は鎧でごてごてしてるけど、すっごく細くて白くて綺麗だし。
怒りっぽいけど、実は照れ屋なだけなんだよねーvvv」


……………
これが、マシンガントーク
これが、恋は盲目
これが、ばか

いや、ばかは言い過ぎかも
ナップは眉間にしわを寄せて考え込んでいた。

なんせ、目の前にはイっちゃってるこの男。

ため息も自然に出てくる。
なんか、ピンク色のハートが見えるし。


「んで、俺とネスは付き合ってるけど、それがどうかしたの?」

マグナがぱっと振り返って聞いてきた。

「いや、どうっていうわけじゃないんだけど……。」
「ふ〜ん。」

マグナはいつの間にか目の前にすわり直していた。




「……付き合ってるひとがいるとか?」

マグナの率直な質問に、びくりと肩が震えたのは失態。

「……付き合ってる人はいないけど……好きな人ならいた。」

少し考えてからそう口にした。

「『いた』?」

ナップは困ったように笑うと、静かに頷いた。

「俺の初恋の人ってさ……先生なんだよ。」

わずかにマグナが目を見開く。
かまわず、ナップは話し続けた。



「たぶん、初恋っていうんだろうな。あんまり自信ないけどさ。
あの人に憧れてた。……誰よりも。

いっつも笑ってて……いつだって一番苦しいのは自分なのに。
他人の苦労を全部一人で背負い込んでてさ……かっこよかった。」


「好きだったんだ。」


ナップはゆっくりとああ、と頷いた。


「でも……その人、一緒に乗ってた船の人のことを好きだったんだよ。いや、付き合ってた。
はっきりとは言わなかったけど…やっぱり、子供でもわかるから。

その、船の人……ご意見番なんて言われてたけど、俺なんかよりずっと大人でさ。
絶対、適わないって思った。
男だけどすっごい綺麗な人で、なんか艶めかしいっていうか……
戦いの場でも強くて、先生はいつもその人に背中を預けてたんだ。」


そこまで、いうとナップは大きく息を吸い込んだ。


「悪いな、こんな話しちゃって。」


マグナは首を横に振った。


「……結局俺はフラれたよ。俺のことそういう風には見れないって。
でも、そのとき俺自分でも信じられないぐらいさ、結構、ひどい事言っちゃたんだよ。」

「ひどい事?」

「ああ……どうして俺じゃ駄目なのか…どうしてその人なのか…なんでそんな人……って感じで。」




あの人殺し……ってね




「もう、無茶苦茶だったよ。すごく、傷つけたと思う。でも、その人は真剣な顔でこう言ったんだ。



『彼じゃないとだめんなんだ』



ってさ。誰にも、代わりはつとまらないって……。そんなセリフ恥ずかしげもなくさらっとね。
だから、俺にはもう勝ち目はないってわかったんだ……。」


そういってナップは、懐かしいものでも見るように空を見上げた。




確かに言った

自分も同罪なのだと

真剣な眼差しで




「正直、先生とその船の人が一緒にいるの見てるの辛いんだ。
もう、諦めたはずなのに……。」

自嘲気味に口角に笑みが浮かぶ。

「好きなんだ。」
「……ああ。」


木の葉の擦れる音が不規則に聞こえる。
わずかなさざ波の音さえ聞こえてきそうなほど、あたりは静まりかえっていた。




「謝っちゃえば?」
「え?」


マグナはまっすぐにナップと視線を合わせた。


「だって、ひどい事言ってその後謝ってないんだろ?だったら謝るべきだ。
そのあとどうするかは、ナップの自由。諦めるも良いし、諦めなくてもいい。
謝って、それからだよ。」


ナップは目を見開いていた。
まるで目から鱗が落ちたとでもいうような感じだ。


「そっ、か……。」
「うん、少なくても俺はね。」


マグナは子供っぽく笑った。

あまりに無邪気な笑顔に、ナップもつられる。











彼は今日、良き導き手と出逢いました。
これはあの事件から20年ほど後のお話です。

彼は先へと進みます。






貴方が愛おしむ彼との旅から
帰ってくるのはいつですか






それは、そう遠くないお話です。




fin



→novel



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送