罪と罰








「酷い傷だね……スカーレル。」


レックスはむき出しの背に刻まれた、痛々しい傷跡を指で辿る。
暗い室内に唯一置かれているランプが、彼の肌を淡く照らしていた。


「跡だけよ、痛みはとうの昔に消えてるもの。」

スカーレルはベッドに寝そべったまま、枕を抱いて答える。


部屋は肌を重ねた後の気怠さに包まれている。
服を着るのも億劫で、一糸纏わぬ姿のままシーツに包まれている。


レックスは辛そうな表情を浮かべ、じっと傷跡を見つめる。


「そんなに珍しい?」


おどけたようにそう言うと、首を横に振られた。

彼はこれでも元軍人。
傷を見るのには慣れているだろう。

もっともそれはいつも彼を苦しめていたのだろうけど。


「ごめんね、無理言って……。」

「かまわないわ、隠してたのはアタシだしね。」


そう言ってスカーレルは悪戯っぽく微笑んだ。


レックスは申し訳なさそうに、静かにシーツを掛けた。



「ありがと。」

スカーレルはそう言うと、レックスを引き寄せ軽く唇を合わせる。
ただ触れ合っただけでお互いに離れた。

レックスは苦笑を浮かべるとシーツに潜り込む。


「嫌いになった?」
「どうして?」


スカーレルはレックスに向き合い、その胸に手を当てる。


「アタシが暗殺者だったって聞いて……。」

スカーレルはじっとそのたくましい胸を見つめていた。
とても上を向く事は出来なかった。
もし肯定されてしまったら……。





今日は初めてスカーレルから求めた。
まるで何も言わせないように、キスで言葉を奪ってから。
今考えると、あの時の自分はよほど必死だったのだろう。
レックスはそれを受け入れてくれた……。





「嫌いになったりしないよ。」

「どうして?」

待ち望んだ否定の言葉を、思わず切り裂くように返してしまう。





怖い





そんな想いが駆けめぐった。



失うのが怖い





驚いたわね……
もう人間の心なんて無くなってしまったものだと思っていたけど





「なんでって……それは過去の事だし……スカーレルには変わりないだろう?」


スカーレルは、真剣に言葉を紡ぐレックスを勢いよく見上げた。


「どうして!?アタシはただの人殺しなのよ!?
こうやって何人も男に抱かせて……そうやって殺してきた。
毒で何人も何人も……。
貴方を殺すかもしれないのよ!?」





いっそ、怒鳴ってくれた方が良かった。
汚れていると罵ってくれた方が。





自分の毒で彼を失ってしまうのが怖い。





「アタシはただの殺人者でしかないのよ……」


スカーレルは拳をレックスの胸に置き項垂れる。





「関係ない。」


今までの優しかった声とは違い力強い。


その声に驚いてゆっくりと顔を上げた。
すると、真剣でまっすぐなレックスの眼があった。


「スカーレルはスカーレルだ、それ以外のなんでもない。」




スカーレルは目を見張った。

恥ずかしさもなくレックスはいたって真剣に言う。
それだけでスカーレルには十分な言葉だった。

普通ならばこんな言葉は信じないだろう。


だが


ああ、なぜ、こんな人が自分の側にいるのだろう
なぜ、この人なのだろう

優しい、それでいて強い


神がいるというのなら

なぜ

彼を自分の元へ使わせたのか
この優しき人を


それともこれは罰なのか……







「スカーレル……泣かないで。」


その言葉に驚いて思わず自分の頬を触る。
しかし、そこは濡れてなどいなかった。


「どういう……。」

その言葉を言い終わる前に、唇を塞がれた。
ただ触れるだけでも、十分に彼の暖かさが伝わってくる。


「泣いてるよ……泣かないで」


唇を離すとまたそう呟く。


どういうつもりだろうか。

泣こうにも、涙など遙か昔に枯れてしまっている。




「ちょっとレックスっ……?」


「好きだ」



唐突なセリフに対処しきれない。
何か言葉を紡ごうとするが、喉が凍ってしまったように何も言葉が出なかった。



「好きだよ」



さらに重ねられた言葉と同時に、レックスに強く抱きしめられた。




しばらくの間、沈黙が流れた。




その間も決してレックスは力を緩めなかった。




スカーレルは決心したようにため息をつく。



「……信じてもいいの……?」

「え……?」


レックスは身体を離し、スカーレルの顔をのぞき込んだ。


「信じてもいいの?」


さっきとはうってかわった決意の眼差しがそこにはあった。


「レックス……」


そう言うとスカーレルはレックスの首に腕を絡めた。


「好きだよ、スカーレル。」





「アタシもよ、レックス。」


レックスもスカーレルを抱き寄せる。



「信じてるから……。」



















これが貴方の与えた罰なのですか?







fin


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