It's transmitted.









「綺麗な音ね……」
「うん、本当に……」

穏やかな日差しが差し込んでいる。
あたりには蒼氷樹と呼ばれる樹が立ち並び、不思議な音を絶えず奏でている。

休日ということで、みんなで山に登り今は自由行動。

レックスはスカーレルと森の中を散歩していた。


「なんか、休日なんて悪い気がするんだけど……。」
「あら、センセはもうちょっと休んでもいいぐらいよ。」

レックスはそう言われて困ったように笑う。

「あら、本気で言ってるんだからね。」
「わかってるって。」

たわいもない会話をしながら、ゆっくりと歩き続ける。


どのくらい経ったかわからないが、もう子供達のはしゃぐ声は聞こえなくなっていた。

あたりには、蒼氷樹の創り出す澄んだ音色だけが響いている。


会話がとぎれた時、スカーレルは突然ぴたりと歩みを止めた。
レックスもすぐに止まるとスカーレルの様子を窺う。

「どうかした?」

振り返ると、スカーレルはそっと蒼氷樹に手を添えていた。

「この樹って、意外と冷たいのね……。」

そう言いながら、木の幹を撫でる。

「ああ、蒼氷樹っていうぐらいだからね。雪も降ってたし……。」

レックスはスカーレルのすぐ側に寄る。

「……こんなに冷えてるのに、綺麗なのね。」

スカーレルは微笑みを浮かべる。
しかし、その様子が儚く見えて、思わずレックスは抱きしめたい衝動に駆られた。

「うん。冷たい…でも透き通ってて、綺麗だよね。」

なんとか自分を落ち着けようと、樹の幹に触れてみる。
すると、その手をスカーレルに捕られた。

「ちょっ……!」

スカーレルは体を反転させ、樹に背中を預ける。
そのままの体勢でレックスの腕を引いたので、レックスの体と樹とに挟まれる事になった。

レックスは何とか幹に手を付いたが、まだ手首を掴んでいるスカーレルの手は放れない。


「スカーレル?」

そういうと、くすりと艶めいた笑みが浮かぶ。


その笑みに思わずみとれていると、空いたほうの腕が首に絡まってきた。

「ちょっとスカーレル、離してって…っ」
「いいじゃない、せっかくの休日なのよ。」

そういうや否や唇が重なってきた。
反射的に肩を抱く。


始めは重なるだけだったが、だんだんと深いものに変わっていく。





スカーレルの顎を捕らえ、角度をかえて舌を割り込ませる。
一瞬驚いたようだったが、特に抵抗もなく、積極的な反応が返ってくる。


「…んっ……苦し……」

スカーレルの口から、吐息に混じってそんなそんな声が聞こえる。

空気を取り入れる為に少しだけ唇を離す。

だが、それはまたすぐに重なり繰り返されていく。



朦朧としてどれだけの時間が経ったのかわからない。
でも、もうそんなことはどうでも良かった。


「スカーレル……。」

レックスは唇から離すと、そのまま耳元に口づける。

耳、頬、首すじと移っていくうちに、ふとレックスは動きを止めた。


「レックス…?」

不審に思ったスカーレルは、レックスの顔をのぞき込む。

すると、先ほどまでの熱に酔ったレックスは何処にもなく
真剣にスカーレルの首筋を見つめていた。


「どうしたの?」

レックスはその声にも顔を上げようとしなかった。

「このイレズミ…傷跡だよね。」

そういいながら、スカーレルの首に毒々しく刻まれた模様を指で辿る。

「そりゃあ、イレズミだもの。……ね、それよりもう終わり?」

わざとゆっくりした動きで、レックスの首に手をまわす。
しかし、そんなことをしてもレックスはまるで反応しなかった。

「傷跡ってそういう意味じゃなくて……傷跡を隠す為に彫ったのかって事」



一瞬ドキリとした。
全く……変に鋭いんだから……



「そんなんじゃないわ、ただ髪飾りと合わせてね。若気の至りよぉv」

そう言って陽気に笑う。
大丈夫、心臓の音まで聞きつけられはしない。


レックスはそう、と言ったっきりスカーレルから離れていった。

「ちょっと、レックス。アタシを放りだしていくつもり?」

わざとおどけるように言葉を弾ませる。

「ごめん…でも、やっぱりみんながいるしね。」

レックスは苦笑を浮かべる。
スカーレルは、あきらめたようにため息をつくと樹から離れた。



飽きられちゃったかしら……



そんな言葉が頭をよぎる。
でもそれで良いという気がした。


「スカーレル。」


何、と振り返ろうとすると急に抱きすくめられた。



「……暖かいね。」


そんな言葉がかすかに耳に届いた。









fin



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