ザ・ニッポン式バレンタイン
「ネスーっ」
ゼラムの高級住宅街。
その一角にひときは賑やかな屋敷がある。
「廊下をばたばたと……もう少し落ち着きを持ったらどうだ」
ネスティは自室で本を読み耽っていた。
静寂の中でのそれをぶち壊すように、マグナは勢いよくドアを開けた。
「いいじゃん、そのくらい♪」
いつになく脳天気な反応を返す弟弟子に、いささか不満を覚える。
「それより、見てよこれ!」
そう言いつつネスティの目の前に、白い紙で出来た箱を置いた。
「ケーキじゃないか……これがどうかしたのか?」
それは町のケーキ屋−パッフェルが働いている店の物だった。
パッフェルが配達に来たのなら、箱に入っているはずがない。
という事は、自分で店まで行って買ってきたという事だろうか。
「パッフェルさんの手伝いしたら、お礼にって貰ったんだ」
そう言われ、ネスティはああ、と納得する。
そういえばマグナは時折あのパッフェルの仕事を手伝っているのだ。
「だから、ネスティと一緒に食べようと思って」
「しかし、君が貰った物だろう」
持っていた本をテーブルに置きマグナに問いかける。
だが彼は一向に気にする様子はない。
すでに皿とフォークが用意してあった。
それどころか、どこから出したのか紅茶までテーブルには並んでいる。
「ネスどれがいい?」
うきうきとマグナが聞いてくる。
ネスティもまぁいいかといった感じで箱の中をのぞき込んだ。
「……全部チョコレートなのか」
箱の中には数種類のケーキが入っていた。
どれも見た目に愛らしく、可愛らしい。
しかし、その全てにチョコレートが使われていた。
「うん、ネスはチョコ嫌いだっけ?」
「別に嫌いではないが」
そう言って一番シンプルな見た目な物を選んだ。
マグナはそのケーキを皿に取り、ネスティの前に置いた。
「どうぞ♪」
「……ああ、ありがとう」
目の前に差し出されたそれを、素直に口に運ぶ。
ほろ苦いチョコレートの味が口内に広がる。
その味が気に入り、自然と手が伸びる。
半分ほど食べ終わったところで、ケーキを持ってきた本人が
ケーキに一切手を付けていない事に気が付いた。
「君は、食べないのか?」
マグナは笑顔で頷いて、じっとネスティを見つめいていた。
「……なんだ?」
人に見られながら食べるのは気が引ける。
「今日、バレンタインデーっていうんだって」
そう言って笑みを浮かべる。
「バレンタインデー……?」
「そ♪」
笑みを浮かべたマグナはまるで子供のようだ。
「なんなんだ、それは?」
「好きな人にチョコレートを贈る日なんだって」
「……そんな話聞いた事もないぞ」
ネスティは、未だに上機嫌なマグナを見上げた。
「そりゃあ、異世界の習慣だからね」
「……そんな事、一体誰に聞いたんだ」
ネスティは痛み始めた頭を抱えた。
確かに、異世界からきた知人は多い。
だから、その知識を得ても不思議ではないが、もう少し役に立つものを覚えてもらいたい。
「トウヤだよ?」
「……」
ネスティは思わず動きが止まった。
どうも、あの誓約者は苦手だ。
全くもって、何を考えているのかわからない節がある。
「で、それをパッフェルさんに話したら、チョコのケーキでも持って行ったらって」
「……それで、僕を実験台にしようと?」
ネスティはフォークを置くと、紅茶を啜った。
「違うって、ネスが好きだからチョコ用意したんだよ」
「ほぉ……」
マグナは立ち上がると、ネスティの傍に来た。
ネスティの頬に手を添えると唇を重ねる。
「甘いv」
「急に何をするんだ、マグナ!」
「何って……キスだよ」
「そんな事を聞いてるんじゃない!」
ネスティはマグナを見上げる。
マグナはそんなネスティを抱きしめた。
「でも、本当に好きだからね?」
「……わかっているさ」
ネスティは頬を薄く染め、マグナの背に手を回した。
「大好きだよ、ネスv」
fin
→novel
その夜
「全く、君は手加減というものを知らないのか!?」
「だって、ネスが可愛いからついv」
「ついとはなんだ、ついとは!」
「いいじゃん、たまにはvあ、そうだネス」
「……なんだ」
「バレンタインデーでチョコを貰った人は、一月後のホワイトデーにお返しをするんだって♪」
「それが、どうかしたのか」
「だから、お返し期待してるねv」
「何故僕がわざわざ、そんな事しなければならないんだ」
「えぇ〜!オレはちゃんとチョコあげたのに!?」
「知った事か。大体、何故勝手に贈られたものに、お返しをする必要がある」
「でも、ネスはオレの事好きでしょ?」
「それとこれとは別問題だ」
「けち〜。じゃあいいよ、身体で返してくれればv」
「何を言い出すんだ君は!」
「あはは、いいじゃんそれくらいv」
「いいわけがあるかっ!だから、お返しなどしないと言っているだろうっ」
「酷いよネスっ!ネスはオレの事嫌いなの?」
「だから、それとこれとは別問題だと何度言えば…!」
「じゃあ、お返し頂戴v」
「だから何故、無理矢理押しつけられたのにお返しを……」
〜〜〜以下繰り返し
Onther Side
「随分ご機嫌だな、トウヤ」
「あぁ、ソル。うん、ちょっとね」
「どうせまた、良からぬ事でも考えてたんだろ……」
「そんな、酷いなぁ」
「まぁ、いいさ。ほら」
「あ、ありがとう……ココア?」
「いや、ホットチョコレートだぜ?今日バレンタインデーなんだろ」
「そうか…ありがとうソル」
「どういたしまして」
「……おいしい」
「そうか、よかった」
「でも……」
「?」
「ソルの方がおいしいv」
「!?なっ、お、おい!」
「それじゃあ、遠慮無く頂こうかな」
「〜〜〜〜!」
|