今年も例年通りの静かな日々が続いている
平凡な日々

今年、彼はどのようにすごすのだろうか
私と同じように昨年と同じなのだろう






All things are your sake.






未だホグワーツに残っていたスネイプは、11時を告げる鐘の音でふと顔を上げた。
相変わらず地下室で薬の調合に没頭していたのだ。

気づけば相当な時間が過ぎている。
そういえば夕飯も食べていなかったと、とりあえず乳鉢を置く。

何か口に入れようと自室へ戻ったが、生憎食べられるものはなさそうだ。

授業があった頃は、あの騒々しい嵐のような子供が何かしら置いていたものだったが。
そこまで考えて、思わず苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
何故この静かな空間にまで、あの騒ぎの元を招き入れねばならんのだ。

結局何も食べずに研究室に戻ると、また実験を続ける気にもなれずソファに座った。
幸い実験の方は丁度区切りがついている。
器具は片づけるのも面倒で作業台の上に放っておくことにした。

グラスと酒を取り出すと、赤い液体を並々とグラスに注いだ。
一口煽ると壁の時計に目を向ける。

カチカチと規則正しい音が続く。
静かなこの空間はまるでその音に支配されてしまったようだった。

そうやってしばらく酒を飲み、ただじっと座っている。


先ほどから浮かんでは消える、影。


それを振り払うように酒を一気に流し込んだ。

それでも時計の針の音はよどむことなく続く。
知らず知らずのうちに何度も時計に目がいってしまう。

スネイプはイライラとグラスをテーブルに置いた。

苛立ちの原因がわからずよけいに腹立たしい。
この静かな空間は何よりも好きなはずだったが、今ではそれすら煩わしい。


スネイプはため息をつくと、少しでも気を落ち着かせるために部屋を出た。





無人の廊下に自分の靴音が響き渡る。

先ほどから随分と歩き回ったような気がするが、まだ自室からさほど距離のないところだった。
地下室を抜け一階を歩いていると、所彼処にある大きな窓から外がうかがえる。

思わず立ち止まって空を見上げた。

満天の星空が何処までも広がっている。

星を隠す雲もなく、光を弱める月も出ていない。

窓枠に手を掛けると、そっと窓を押し開いた。
微かに草木の香りを乗せた風が頬を撫でる。

それに外界を感じ、随分と久しぶりに外に出たような気がした。

いつの間にか荒ぶった心は落ち着きを取り戻している。


苛立ちの原因などとうに解っている。
ただそれを認めたくなかった。


そんなことを考えていると、視界の端でなにかが動いたような気がした。
不思議に思いそちらに目を向けると、思わぬ光景が目に飛び込んできた。

1つまた1つと無数の流星が尾を引いている。

そよ風がローブを揺らしていった。






『じゃあ先生。こういう伝説知ってます?』
『……なんだ』
『流れ星が流れている間に、3回願い事を唱えるとそれが叶うんですよ』
『ほう、それは便利なことだな』
『先生信じてないでしょう!?』
『ご名答だ。どうやらそれに気づく知恵はあるらしいな』
『もう、先生!!』





そんな会話を思い出し苦笑が浮かんだ。

確かに神秘的というかミステリアスな情景ではある、と思う。
そういう伝説が生まれてもおかしくないのかもしれない。

しかし実際は宇宙のゴミが素となってできた隕石が大気圏に………
……止めておこう、こんな事を言えばあの子供が真っ赤になって怒り出すに決まっている。
あげくロマンがないだの夢がないだのいって、不機嫌になるに違いない。

彼も今頃、この星空を眺めているのだろうか。
あの、小さな恋人。

そこまで考え最終的に必ず彼に結びつけてしまう自分に気が付いた。



結局、捕らわれているのだろうか……。



星の魔力に



あの光り輝く緑の星に






もし流れ星に本当に願いを叶える力があるのなら




……I wish all things are your sake.




叶えてみせるが良い








そして彼は、実験を再開するために踵を返した。



Fin




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